街に溶け込むカフェの立ち上げ、ブランディング
alu. opening and brandingビルとの出会い
福岡県福岡市大博町。歴史ある博多の街の大通りから少し外れた場所に、そのビルはありました。
古く、寂れたビル。
ある会社の倉庫として使われていたその建物は、ひどく汚れ、経年劣化で至るところに補修が必要な状態でした。少しずつ朽ちていきながら、その役目を終える時を待っている。そんな佇まいでした。(当時の姿はこちら)
クリエイティブの実践・実験の場を探していた私たちにとっては、まさに運命的な出会いでした。
形を残したまま、生まれ変わる
空間デザインを依頼したのは、建築家の佐々木慧さん。
「ビルの現状をできる限り残しながら、全く違うものとして生まれ変わらせたい」
私たちの要望は矛盾にも近いものでした。
見た目はボロボロ、断熱材が入っておらず、夏は暑く冬は寒い。
機能面で効率が悪い建物であることは否めません。
ただ、このビルは長い間この大博町に立ち続け、街を見守ってきた存在でした。
それを壊し、ゼロから再構築することに大きな違和感があったのです。
そのビルであることは絶対的に変わらず、しかし劇的に生まれ変わる。 そんな設計・デザインを依頼しました。
そうして出来上がったのが現在のビルです。
元の形はほとんど残しながら、必要な部分にのみ手を入れました。そして、全体をとにかく「白」く塗りました。天井や壁には穴が空いていたり、ボコボコとした凹凸も残っています。 きちんと整備された内装も素敵ですが、これはこれで愛着が湧くものです。
デザインでは決して作ることのできない「味」として、これからも建物に残っていきます。
デザインとカフェ経営
私たちが普段行っている「クリエイティブ事業」と、カフェのような「新規事業開発」は、一見すると全く異なるものにも見えます。
しかし、私たちがクリエイティブのお仕事をいただくクライアントは、お客様に対して何らかの商品やサービスを提供して対価を得るというビジネスを行っています。
飲食店・飲料・フィットネス・病院・不動産・家具工場など、その業種は様々です。
一方で、私たちはデザインやエンジニアリングやマーケティング支援といったものしか売ったことがありません。その多くはデジタルの世界で完結するものであり、直接エンドユーザーの顔を見る機会は多くありません。
クリエイティブ事業で関わるクライアントが増えるほど、彼らの事業について深く考えれば考えるほど、「一般消費者のみなさまに直接商品を提供する経験」「自らが設計・開発したサービス・商品・クリエイティブへのフィードバックを肌で感じる経験」が欲しいと考えるようになりました。
これが、スタンスが自社で新規事業開発を行う大きな理由です。
場所探し、不動産の交渉、設計、施工、什器、仕入れ、原価率、採用、教育、商品開発など、一つの店舗を事業として成り立たせるにおいては様々な(しかも未体験の)課題が存在しています。誤解を恐れずに言うならば、デザインやエンジニアリングやマーケティングはそのうちの一つでしかないと実感しました。
だからこそ、私たちはどのような姿勢・視点でクリエイティブの依頼に向き合うべきか、クライアントの課題にどの段階から取り組むべきか、単なる「制作」ではない関わり方ができると信じています。
alu[或]の由来
その存在によって劇的に街を変えてしまうものではなく「ただそこにある珈琲店」というコンセプトで「alu.」というネーミングにしました。
私たちが目新しいものを持ってきて披露しなくとも、この街には既に多くの魅力が存在していました。alu.の位置する博多区は鎌倉幕府が国土防衛のために大規模整備を行なった土地です。今でもその名残を持ち、「旧市街」と呼ばれる雰囲気の良い街並み、歴史ある建物も点在しています。
街の雰囲気は穏やか。小学校帰りの子どもたちがワイワイ通りすぎたり、近所で犬の散歩をしているグループが遊びにきたり、ご年配の方が来店されたり、都心の店舗にはない光景が見られる場所です。
特別なことをせず、街に溶け込み、日常使いで美味しい珈琲が飲める。
この街に必要なのはそんなお店だと考えました。
alu.に込めたもうひとつの意味が「コラボレーション」です。
私たちはクリエイティブの価値を信じる集団です。私たちと同じように言葉やビジュアルやその他のあらゆる方法を使って表現をする方々に、その発表の場としてこの場所を使って欲しいと考えています。
博多区一帯を巻き込んだアートイベントに参加し2Fをギャラリーとして開放したり、店内にアーティストの作品(絵)を展示したりと、アートに関するさまざまな活動を行なっています。
場所としての透明性を高め「誰かの才能や表現や、新しい価値観に触れる場所」になればいいなと思っています。
道が導線となり、街に馴染んでいく
alu.は「街との一体感」を重視するお店です。
内装における大きな特徴の一つが、全面ガラスの入り口と、道に向かって斜めに伸びたカウンターテーブルです。
店舗正面は全面ガラス、フルオープンにすれば街と店舗の境界が分からないようなデザインになっています。
そこに特徴的なカウンターテーブル。道を歩いてそのまま店舗に入ることのできるような設計は、店舗前の道を店舗の導線と捉え、外と中の境界を曖昧にします。近隣住民の方からも気軽にお声がけいただく機会が増えました。
これまではオフィスに篭りっぱなしだったクリエイティブのスタッフも、お客様や近隣の方とお話をすることが増え、ビル全体に活気を感じるようになりました。
これからのalu
クリエイティブチームは同ビルの2F〜3Fで制作を行っていしたが、2022年、alu.の営業を1F〜3Fに拡張し、クリエイティブチームは近隣への事務所移転を実施しました。
理由は様々ありますが、大博町まで足を伸ばしてくださったお客様に対して、準備できる席数が少なすぎたというのがひとつの大きな要因です。お客様よりゆったりと良い時間をお過ごしていただけることを目指し、店舗の改善や商品開発を引き続き行なっていきます。
余談ですが、クリエイティブチームはこの4年で3回のオフィス移転を経験しました。
土地や環境からも刺激を受けながら、今後も自分たちが楽しく働ける場所を探していきたいと思っています。
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credit
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- Produce
- 大杉紘史
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- Space Design
- 佐々木慧 (axonometric)
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- Creative Direction
- 智原北斗
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- Art Direction / Graphic Design
- 瀬戸えり子
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- SNS Design
- 砂川陽子 / 吉藤志織
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- Photographer
- 前田耕司
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